masami71の日記

熊本市在住の68歳の年金暮らしです

落合恵子さんの絵本の時間 「スーホの白い馬」

むかし、モンゴルの草原に、スーホーというまずしいヒツジかいの少年が、
おばあさんと二人でくらしていました。
スーホーの仕事(しごと)は、毎朝早くおきて、かっているたくさんの
ヒツジたちを、えさの草がある草原につれていくことでした。
〔語り:木南晴夏(きなみ・はるか)さん〕
ある日のこと。スーホーが、もう日がくれるのに帰ってきません。
おばあさんが心配(しんぱい)していると、何か白いものをだきかかえた
スーホーが帰ってきました。
それは、生まれたばかりの、雪のようにまっ白い子馬でした。
「ひとりぼっちでたおれていたんだ。母馬もいなかったから、オオカミに
食べられたらかわいそうだと思って、つれて帰ってきたんだよ」
とスーホーがわけを話しました。
そして、「おまえの名前は、ツァスにしよう」と言いました。
「ツァス」というのは、モンゴル語で『雪』という意味(いみ)でした。

子馬だったツァスは、うつくしい白馬にそだっていきました。
スーホーとツァスはとてもなかよしで、スーホーが出かけるときはかならず
ツァスもついてくるのでした。
ある夜のことです。けたたましい馬の鳴き声でスーホーは目をさましました。
「ツァスの声だ。何があったんだ?!」。
外へとびだしてみると、ツァスが大きなオオカミから大切なヒツジたちをまもろうと、
ひっしにたたかっていたのです。
スーホーはぼうをふりまわしてオオカミをおいはらうと、ツァスの首を
だきしめてこう言いました。
「ありがとう、ツァス。これからも、ぼくとおまえはずっといっしょだよ」。
王さまの競馬大会ある年の春、王さまが競馬(けいば)の大会をひらく、
という知らせがとどきました。
1等(とう)になったら、おひめさまとけっこんできるというのです。
「ツァスならきっと1等になるよ!」といわれ、スーホーも出ることにしました。
いよいよスタートです。何十頭もの馬がいっせいに緑(みどり)の草原を走り出しました。
はじめはうしろのほうを走っていた白い馬が、ぐんぐんとほかの馬をおいぬいていきました。
スーホーがのったツァスです。
もうおいつける馬は一頭もいません。
白いたてがみをうつくしくなびかせて、風のようなはやさでゴールまでかけぬけていきました。
ところが王さまは、まずしいみなりのスーホーを見るなり言いました。
「おまえのようなみすぼらしいヒツジかいと、わがむすめをけっこんさせるわけにはいかん」。
そして銀貨(ぎんか)を3まいなげてよこすと、
「その白い馬をおいて、さっさと帰れ」と言いました。
「ツァスはわたしのだいじな馬です。お金なんていりません。さあ、ツァス、帰ろう」と
スーホーは答えました。
「なに? わしにさからうのか。こいつに思い知らせてやれ!」。
スーホーはおおぜいの家来(けらい)になぐられ、けとばされ、気をうしなって
しまいました。
ツァスはスーホーのほうをふりむきふりむき、手綱(たづな)を引かれていきました。
すばらしい白馬ツァスを手に入れた王さまはごきげんでした。
その日は白馬を客(きゃく)たちにじまんするために、酒(さか)もりを
ひらいていました。
王さまがとくい顔でツァスにまたがったとたん、ツァスはとつぜんあばれだし、
王さまをふりおとしました。
ツァスは風のようにかけだします。
「あの馬をつかまえろ! にげられるくらいならころしてしまえ!」。
家来(けらい)たちのはなった矢が、何本もツァスにささります。
それでもツァスは休むことなく、大すきなスーホーに会いたくて、
ただただ走りつづけました。
その夜、スーホーはあやしい物音(ものおと)で目をさましました。
外に出てみると、赤い馬が立っていました。
それは、血(ち)まみれになったツァスでした。
「ツァス! 帰ってきてくれたんだね。
こんな目にあいながら、本当に会いにきてくれたんだね!」。
スーホーはツァスの体にささった矢をなきながらぬきました。
「ツァス、しなないでおくれ。ツァス! ツァス!」。けれどもつぎの朝、
ツァスはスーホーにだかれながらしんでしまいました。
スーホーは一日中なきつづけました。
すると、なきつかれてねむってしまったスーホーのゆめの中に、
ツァスがあらわれ、こう言いました。
「どうかかなしまないでください。わたしの心はいつもあなたといっしょです。
わたしのほねや皮(かわ)やしっぽで、楽器(がっき)を作ってください。
そうすれば、わたしはいつまでも、あなたのそばにいられます」。
スーホーは何日もかけてその楽器(がっき)を作り上げました。
スーホーがこの楽器をひくと、ツァスのいななきの声や、ツァスの走るひづめの音がしました。
その音色(ねいろ)を聞くと、ツァスにのって草原をかけまわった楽しさや、
ツァスとわかれたかなしさを思い出しました。
スーホーは、ツァスがすぐそばにいるような気がしました。
そして、その楽器のうつくしい音色は、モンゴルの草原にくらすすべての人々の心をいやし、
なぐさめてくれるのでした。
これが、モンゴルにつたわる楽器「馬頭琴(ばとうきん)」のおはなしです。