masami71の日記

熊本市在住の68歳の年金暮らしです

彼女の冷蔵庫ー骨粗鬆症

今日も暑く、熊本の最高気温が29.1度、人吉で30.5度でした。
今朝のラジオ文芸館は 山本文緒著の彼女の冷蔵庫でした。
両足首が骨粗しょう症で骨折するお話です。
食生活には注意しましょう。特に生理が止まると、女性ホルモンが少なく
なり、骨粗しょう症になりやすいです。
「未矢さんが両足首を骨折して入院しました。」と、
留守番電話にメッセージがあった。
会社帰りにスーパーで買って来た食材を冷蔵庫に入れていた私は、
思わず電話機を振り返る。
「病院の電話番号は・・・」と、メッセージは続く。
私は慌てて電話機に駆け寄った。
終わってしまったメッセージをもう一度聞くために巻き戻す。
男性の機械的な声が、同じセリフを繰り返した。
わかったことは二つ。未矢が両足首を骨折して入院したこと。
そしてその病院。よろしくお願いします。と電話は切れた。
よろしくと言われても・・・。
どうせなら、一体何故両足首を骨折などと言う奇異な
自体を招くことになったのか、どういう状況なのかわからない。
未矢の住む東京は、ここから遠い。日帰りで行ける距離にない。
両足首を骨折して入院したと言うのは、ほかならぬ私の娘なのだ。
血は繋がっていないにしても。
夫に相談すると、眉一つ動かさずに「お前行って来てくれ。」と言われた。
行って来てくれと言われても・・・。
私は翌朝一番の飛行機で東京に向かった。

主人公は35歳の女性。
同じ会社の上司であった男性に恋をして、恋を実らせ、結婚したのでした。
その時「美矢」は15歳。用事で上司の家に出向いた折、上司の妻は
全然魅力のない女性に映りました。
それゆえ、「彼女」は家族のある男性との恋が実ったわけです。
10年前の彼にのぼせていた頃と違い、「彼女」は彼が仕事だけの人間で、
妻や娘に配慮が足りないと思っている。
今度、娘が「両足骨折で入院」と聞いても、血のつながらない妻に
東京まで行かせる。
仕事をもっているので、義理の娘のケガは困ったものだと思う「彼女」。
でもすぐに病院にかけつけ、義理の娘「未矢」と会い、さまざまなことが分かってくる。
未矢の上司が、昨日入社した未矢を課の女の子たちと、歓迎を兼ねて、
うなぎ屋さんに連れって行ったとのこと。
そこの座敷に1時間ほど正座して、席を立とうとしたら大変なことに。
「最初は足が痺れたの?なんて笑っていたんですけど、どうも彼女が本当につらそうなので、まさかとは思ったんですけど、タクシーに乗せて病院に連れてきてみたら、・・・」
「両足首が折れていた、と?」
彼は頷いた。私は、笑おうかどうしようか迷った。
未矢は私に一言も口をきかず、まともに見ようとしない。
「とにかく、パジャマとか下着とか、持ってきて欲しいものを書いて。」
そう言って紙とペンを渡すと、未矢は少し戸惑ったように私を見上げてから、ペンを動かした。
そしてベッドの脇に掛けてあったバッグを取って、中から部屋の鍵を出した。
都心から地下鉄に乗って15分、駅から徒歩5分の所に彼女のマンションはあった。
アパートだと思っていたら、やけに立派なマンションだったのだ。
こんな所の家賃がちゃんと払えているのかしら。
それとも、少し古いかもしれないが「パパ」でもいるのかしら。
そう思いつつ部屋のドアを開けて、私は肩をすくめた。
うさぎですら窒息しそうなほど狭いワンルームだった。
パイプ製の洋服掛けにぎっちりワンピースやらスカートやらが掛かっている。
その横にシングルベッド。それだけでもう、床はほとんど見えない。
ベッドの脇に置いた小さなテーブルには、鏡と化粧品とアクセサリーが所狭しと並べてあった。
きちんと片付いているし、整理整頓されていた。
けれど、その部屋の印象はどこか殺伐としたものがあった。
小さなキッチンには、汚れ一つない。つまりまったく料理をしていないと言う事だ。
ふと思いついて冷蔵庫を開けてみる。
中にはビールとミネラルウォーターが何本か入っているだけだった。
病院から出る前に、医者に聞いた彼女の病状が頭をよぎる。
「ろくにものを食べていないんでしょう。見てください。骨がスカスカでしょう。
これじゃ老人ですよ、簡単に折れるわけだ。」
x線写真を指差しながら、医者は続けた。
「生理も1年近くきていないそうですよ。かえって楽でいいとか言うから叱りました。」
スカスカ・・・。私はつぶやいた。まるで彼女の冷蔵庫のようだ、それは。
私は狭い部屋にぎっちり詰め込まれた色とりどりの洋服に囲まれているうちに、何だか気分が悪くなってきた。
未矢は10年前の「彼女」の生活と酷似している。
美しくなるために、カロリー制限の食事をし、アクセサリーや洋服に囲まれていた。
冷蔵庫の中はからっぽに近い。コンビニで買ったビニールのままの食糧が目についた。
未矢は10年前に、母親が父から見捨てられたのは、魅力がなくなった
せいと思っている。
「彼女」の方が若くて美しくかったから、母は捨てられたと。
未矢自身も「淘汰」されないように、外見を美しく保つ生活をしてきた。
「未矢」は付き合っている既婚の男にも捨てられ、やっと入れたばかりの
会社からも解雇された。
無理な食事がたたっての両足骨折。
義理の母に笑顔で面会できる状態ではない。
しかし、2人の間に不思議な友情が芽生え始める。
「彼女は」未矢の中に昔の自分を見たのだろう。
憧れて結婚できたはずの夫に今は夢中ではない。
自分の武器であった美しさや若さに少しずつ翳りを感じている。
「あなたの世話になんか、なりたくない。」
彼女はぽつんと言った。私はただ黙っていた。
「でも、あなたしか面倒を見てくれる人がいないの。」
私は黙って、目で返事をした。彼女は自嘲気味に笑った。
「ねえ、どうしてそんなに親切にしてくれるの?私がお父さんの娘だから?
お父さんにいい顔がしたいから?」
その質問に、私も少し笑った。
「仕方がないから。」
「ほらね、やっぱり。心配してるわけではないのね。」
「してるわよ。」
「今、仕方ないって言ったばかりじゃない。」
私は風でまとわりついた前髪をかきあげて息を吐いた。
「あのね、当たり前のことなの。」
「は?」
「さっきから心配してるとかしてないとかなんとか言ってるけど、
私には当たり前のことなの。
目の前で転んだ人がいたら、私は反射的に助け起こすわよ。
それが知り合いじゃなくてもね。
あなただったらどう?無視する?別に大人でなくてもいいわ。
小さな子供だったらどう?助け起こさない?」
「不治の病にかかったわけでもないのに大袈裟よ。
だいたい、自業自得じゃない。食べなきゃ弱って当たり前なの。
それにね、骨なんか、今からでも強くできるんだから。
しばらくは私が骨に良さそうなお料理作って無理矢理にでも
食べさせてあげるわよ。」
彼女が私を見上げた。少しだけ不信の色が混じっている。
「で、治ったらまた、喧嘩しましょう。」