masami71の日記

熊本市在住の68歳の年金暮らしです

NHKラジオ文芸館 ロバのサイン会

今回のアンソロジーの中でいちばんのお気に入り。
最初は、なぜにロバが書店話で主人公に…違和感がありましたが、ウサウマくんが次第に溶け込んでいきます。
ウサウマくんにきちんと向き合った沢村くん。
ウサウマくんの奮闘によってつながった暖かい絆にほのぼのとします。
ロバは別名うさぎうま(兎馬)。漢語では驢(ろ)。古代より家畜として使用される。現生ウマ科の中で一番小型だが、力は強く、記憶力も良い。

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『ロバのサイン会』吉野万理子
主人公はテレビ局の企画で全国を旅し人気者となったロバの「ウサウマ」。
「ウサウマ」の写真集発売を記念したサイン会が開催されることになり、彼がそこで耳にしたのは、
一緒に旅をしたアシスタントディレクターの「山田ちゃん」が心の病気にかかっているという話だった。
矢も盾もたまらず「山田ちゃん」のもとに駆けつけようとする「ウサウマ」だったが、書店の店員「沢村」に止められる。
果たして「ウサウマ」は「山田ちゃん」と再会できるのか…?
一緒に旅したパートナーの身を案じるやさしいロバと、彼と心を通わす人々の姿をロバの目線で描いた作品。

語り:佐藤 克樹
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ろばの「ウサウマ」はADの山田ちゃんと日本全国を旅してまわるテレビ番組で人気者だ。
そして本まで出版された。「ウサウマ」のマナージャーは金井という人です。
デパートの屋上で本の出版を記念してサイン会が企画された。
「ウサウマ」は蹄に墨汁をつけてサインする練習もしたのです。
本当はサイン会でなく、80人ほどと「ウサウマ」との撮影会です。
ADの山田ちゃんは、今腰を悪くして入院している、おまけに心の病気にかかっているという。
山田ちゃんは他の仕事で来られないとてっきり思っていたのだが。
サイン会の休憩時間に「ウサウマ」は編集者の小林と本屋の沢村が話しているのを聞いてしまったのだ。
ADの仕事はそれくらいきついのだろう。マネージャーの金井は席を外していた。
山田ちゃんは本が大好きだ。
「ウサウマ」は長方形の物がどれほど世界をひろげてくれるかを知った。
「ウサウマ」には人間のことばが分かるが、ことばを話せない。山田ちゃんとは首を縦横に振ることで通わせあうことができた。
休憩時間も終わろうとするとき、わずかなすきを見つけて、「ウサウマ」は山田ちゃんに会いに行こうと逃げようとしました。
エレベータは苦手なので階段で降りようとしたけど、デパートの階段はあまりにも急で危険だった。
けれど「ウサウマ」は山田ちゃんに会いたいと思った。
それに気づいた沢村は「ウサウマ」を止めました。
そして、沢村は「ウサウマ」が人間の言葉を理解することに気づきました。
沢村もうさうまの気持ちが分かっていた。
沢村の話しかけにうさうまは首を振って答えた。
今は無理だけど、いつかきっとやまだちゃんに会わせてやるよと沢村は約束する。
さて、予定されていた、年二回のうさうまの旅企画が後半がキャンセルされることとなった。
山田ちゃんの病気が原因だった。
他に芸のない「ウサウマ」は、田舎の牧場に売り払われて行った。
そこで、なにもすることなく過ごしていたある日、思いがけない人が現れた。
沢村だった。
テレビで放映された、山田ちゃんを気に入ってお嫁にこないかと言っておばちゃんもトラックから降りてきた。沢村の母親だった。
彼は三浦半島の実家から、今は東京まで通勤しているという。
まだ結婚してないけど、二人はアツアツだ。
「ウサウマ」は山田ちゃんとの再会に胸を熱くした。
山田ちゃんは、出版されたばかりの本にサインしてと「ウサウマ」に頼む。
しかし墨汁をつけすぎて、汚してしまう。
落ち込む山田ちゃんに沢村は言う。
「いいんだよ。この本はりっぱに仕事を果たしたんだよ」
沢村は農家を捨てて本の世界を選んだ。
農作物は食べられたり、腐ったりしてその命を終えてしまうが、本の命は永遠だから。
けれど、消費されて、終えてしまう物でも消える瞬間にチカチカ輝くことがある。
本が取り持つ縁で「ウサウマ」と山田ちゃんと沢村は結ばれることができたのだから。