masami71の日記

熊本市在住の68歳の年金暮らしです

むすんでひらいての謎 

深夜1時過ぎ、眠れず「ラジオ深夜便」を聞いてましたら、「むすんでひらいて」の童謡についてお話がありましたけど、聞いてびっくりしました。
むすんで ひらいて 手を打って むすんで♪
『ドナドナ研究室』ファイルNo.005では、幼少期に日本の幼稚園・保育園等に在園していた方であれば一度は歌ったことのあるであろう「むすんでひらいて」を取り上げたいと思います。
「むすんでひらいて」と聞いて「これは純粋な日本の童謡なのでは?」「なぜ世界の民謡・童謡のクローズアップで取り上げられるの?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、それらについては後述するとして、まずは「むすんでひらいて」の歌詞をご覧ください。

むすんで ひらいて 手を打って むすんで
またひらいて 手をうって その手を 上に
むすんで ひらいて 手を打って むすんで

この歌詞についても今更掲載する必要のないくらい日本人の心の中に深く刻まれていることでしょう。
「むすんでひらいて」のメロディーを聞くと、自分が幼い頃の具体的な思い出が頭の中に鮮明によみがえってくることも多いと思います。

一体「むすんでひらいて」の正体とは?
一般的には、この曲のメロディーを聞いてほとんどの人が連想するのは幼少期の遊戯曲・童謡である「むすんでひらいて」だと思いますが、必ずしもすべての人がこの童謡としての「むすんでひらいて」を連想するわけではないようです。
ある程度御高齢の方にこの曲のメロディーから思い浮かぶイメージを聞いてみると、この文部省唱歌である「むすんでひらいて」ではなく、昭和初期の戦争時の軍歌・行進曲を思い起こされる方がいらっしゃると思います。
また、児童・生徒向けの唱歌として記憶していたとしても、「むすんでひらいて」というタイトルではなく、全く別の歌詞とタイトルがつけられた曲として認識している御高齢の方は結構多いでしょう。
さらに、聖書・讃美歌・教会音楽に詳しい方にこの曲のメロディーを聞いてもらうと、返ってくる答えの多くは「むすんでひらいて」ではなくこれは讃美歌であると言われるかも知れません。
もっと言うと、アメリカ人にこの「むすんでひらいて」のメロディーを聞いてもらうと、「ああ、これは『ロディーおばさんに言っといで』という曲のメロディーだね。」という答えが返ってくるでしょう。
もっともっと言うと、クラシックやオペラに詳しい方に聞いてもらえば、これも「むすんでひらいて」の内容とはほとんど関連性の無い楽曲名を教えてもらえることでしょう。
何故「むすんでひらいて」のメロディーを聞くことで連想する対象やイメージがここまで人によって異なるのでしょうか?
私達が幼い頃から慣れ親しんできたあの「むすんでひらいて」はなんだったのでしょうか?
これらの多様性の背後にあるカギを解くには、この曲が生まれ伝わっていった過程を見ていく必要がありそうです。

「むすんでひらいて」のメロディーは、明治14年(1881年)11月刊行の文部省音楽取調掛編著『小学唱歌集』初編に収められる形で広く日本に発表されました。
当時は『見渡せば』という題名で、歌詞の内容も現在の「むすんでひらいて」とは全く異なるものでした。
この歌詞は「古今集」巻第一の素性法師の歌を元にして、国文学者でありかつ音楽取調掛雇であった柴田清照(きよてる)と稲垣千頴(ちかい)が楽譜に即して作り直したもののようです
(ちなみに「見渡せば」が「むすんでひらいて」の元歌であることは異論がないようです)。

さて、当時の資料中の記述についてですが、この『小学唱歌集』初編には作詞者・作曲者の名前は一切記載されていないので(「見渡せば」以外の曲もすべて同じ)、ここは「むすんでひらいて」研究の第一人者である海老沢先生の著書「むすんでひらいて考」を参照したいと思います。
『小学唱歌集』初編が刊行された翌年の明治15年に、音楽取調掛はPRのために一大演習(デモンストレーション)を行ったのですが、その解説・案内役を努めた伊沢修二が彼自身のために用意していた解説原稿の中の一文に、この「見渡せば」関する重要な記述があるのです。
「見渡せバ・・・楽譜ハ仏国ノ学士ニシテ音楽ニ著名ナルルーソウ氏カ睡眠中ニ作リタル曲ニシテ・・・」
(『むすんでひらいて考/海老沢敏著』p36より引用)
この記述の中の「ルーソウ」というのがまさにJ・J・ルソーのことであるようです。
さらに、大演習の英文プログラムには「見渡せば」に対応する英文の曲名として「Rousseau's Dream」との記述もあったようです。

どこにも出てこない「村の占師」
当時の資料から、「ルソー」という名前と「Rousseau's Dream」という曲名が見つかりました。
明治14年(1881年)に発表された「見渡せば」は、これらの資料上の記述により「Rousseau's Dream」という
曲が元歌であることが分かったのです。
しかし、先ほどから述べている『村の占師』を連想させるキーワードは見つかりませんでした。
様々な資料を見てもルソーは「Rousseau's Dream」という曲は作曲していないようなので、この「村の占師」と「Rousseau's Dream」の間に他の何らかのつながりを見つけなければ、ここでルソーと「見渡せば(むすんでひらいて)」
の関係は途切れてしまうことになります。
本当に「むすんでひらいて」をルソー作曲としても良いのでしょうか?
この問いに答えを出すにはまずこの「Rousseau's Dream」について明らかにする必要がありそうです。

『見渡せば』の歌詞[編集]

1881年 作詞者 柴田清煕(一番)・稲垣千頴(二番)。
一番は、日本の春の景色を、
二番は、日本の秋の景色を歌った歌詞である。

見渡せば 青やなぎ、花桜 こきまぜて、
みやこには 道もせに 春の錦をぞ。
佐保姫の 織りなして、降る雨に そめにける。

見渡せば 山べには、尾上にも ふもとにも、
うすき濃き もみじ葉の 秋の錦をぞ。
竜田姫 織りかけて、つゆ霜に さらしける。