masami71の日記

熊本市在住の72歳の年金暮らしです

熊本地震直後の熊本県警察部隊の対応

1.現場臨場
熊本県警察機動隊の隊長以下60 人は、前震発生直後から全員が徹夜で救助活動を行い、本震発生時には一部の要員を残して自宅で休息を取っていた。
激しい揺れが収まると、直ちに全員が機動隊庁舎に緊急参集して、慌ただしく出動準備が進められた。
第一中隊長以下34 人は、「要救助者2人が倒壊建物内に閉じ込められている。」との熊本県警察本部の指示に基づき、16 日午前3時15分に機動隊庁舎を出発して、嘉島町上仲間地区の建物倒壊現場へ急行した。
途中の経路には、信号滅灯や隆起・陥没などの道路損壊が発生していたが、土地勘を有していたこともあり、適宜迂回して午前3時30 分頃(約15 分後)に現場付近に到着した。
帯同車両については、大型の人員輸送車を除き、現場直近まで乗り入れることができた。

【帯同車両】
・ 先行情報収集車両(普通車)1台   ・ レスキュー車(中型車) 1台
・ 人員輸送車(大型車) 1台
熊本県警察機動隊活動現場(嘉島町) 約15 分間
状況確認の結果、2階建て木造家屋が上下階共に崩壊し、2階の屋根が地面から約1mの高さまで崩落していた(写真2-3-1、図2-3-2)。
熊本県警察部隊は、任務分担した上で、先着していた消防部隊(3人、所属不明)と合同で救助活動を開始した(表2-3-2)。


図2-3-写真2-3-1 現場到着時の状況 2 現場の建物倒壊状況(イメージ図)

熊本県警察部隊の任務分担
○ 倒壊建物内部・直近での救助活動
○ 活動支援(安全監視、資機材搬送等)
第一小隊(16 人)  第二小隊(16 人)
熊本県警察部隊の任務分担
○ 倒壊建物内部・直近での救助活動   第一小隊(16 人)
○ 活動支援(安全監視、資機材搬送等) 第二小隊(16 人)

2.現場関係者からの情報収集
活動現場到着時、要救助者(80 歳代男性)の家族3人(妻、次男、長女)が倒壊家屋前で部隊を待ち受けており、要救助者に関する情報提供を受けることができた。
機動隊庁舎を出発する際の熊本県警察本部の指示では要救助者2人との情報であったが、既に1人(要救助者の妻)は家族によって救出されていた。
表2-3-3 現場関係者の情報
〇 妻
・ 倒壊建物内に閉じ込められたが、次男等により救出された
・ 夫(要救助者)とは別の場所で就寝していたことから地震発生後の状況は分からない
〇 次男
・ 本震発生後、両親の安否確認のため実家に赴いたところ、建物が全壊していたため110番通報した
・ 通報後、近隣住民と共に倒壊建物内から母親を救出するも、父親は崩壊した建物の梁に挟まれており救出できなかった
※ 父親(要救助者)の閉じ込め位置等について情報提供あり
〇 長女
・ 長男からの連絡により実家へ赴いた(救出された母親に付き添っている状況)

3.活動現場の危険要因
余震が断続的に発生していたほか、建物倒壊の更なる進行、落下危険物等の危険要因があった(表2-3-4,5)。
そこで、現場関係者や余剰の隊員を離れた場所へ移動させるとともに、専従の安全監視要員を倒壊建物の周囲に配置し、緊急待避合図(笛の吹鳴)を設定して消防部隊と共有した。
また、緊急退避を迅速に行うための瓦礫排除等のクリア措置など、二次災害防止策を講じた。
救助活動中の余震発生状況(嘉島町
計 33 回 (震度3:6回、震度2:8回、震度1:19 回)
救助活動中の主な危険要因
・ 不安定建物(余震により更なる倒壊の危険性)
・ 落下危険物(屋根瓦、天井板等)
・ 散乱瓦礫(釘が飛び出た木材、ガラス片等)
・ 粉塵(特に土壁破壊時等に飛散)
・ 視界不良(停電により完全な暗闇状態)
4.倒壊建物外からの呼び掛け
倒壊建物の崩壊箇所(崩落した屋根の軒先)から「警察です。大丈夫ですか?」などと内部に呼び掛けたところ、すぐに内部からの反応を確認することができたものの、声の通りが悪く、人の声であることは分かったが、内容までは聞き取れなかった。



また、倒壊建物外部から要救助者の姿を視認することができなかった。
写真2-3-2 呼び掛け中の状況 写真2-3-3 左同
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5.要救助者へのアプローチ
現場関係者から「この場所(呼び掛け位置付近の開口部)から進入すると、父親の身体の一部が見えた。」との情報提供があったため、同所を進入箇所の第一候補とした。
同所には、高さ約1m・横幅約2.5mの隙間があり、崩落した屋根の梁などがしっかりと噛み合っており、小規模な余震による倒壊の危険性は低いと判断することがでた。また、建物外周を確認するも、他に要救助者に接近できる開口部は見当たらず、新たに開口部を設定する時間や同作業に伴う建物崩壊の危険性などを総合的に勘案し、同所を進入箇所に決定した(写真2-3-5)。
進入に伴う倒壊建物の安定化措置については、開口部が安定的であったこと、救助用支柱器具を別部隊が携行していたことなどから、救助活動のスピードを優先して見送った。
倒壊建物の内部は、崩壊した土壁や家具等が散乱していたが、梁などが噛み合って安定している様子であった。
瓦礫を排除しながら奥方向へ進み、進入開始から約3分後、開口部から約3.5mの地点で、崩落した土壁の隙間から要救助者の身体の一部(顔部)を確認することができた(図2-3-3)。

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6.接触時の要救助者の状況
接触時、要救助者は2階居室内のベッド上に仰向けで横たわり、顔以外の部分は布団で覆われ、左大腿部
を梁(約15cm 角)が圧迫している状況であった。


要救助者は意識清明であり、バイタルも安定していたが、「足が動かない。しびれた感じもするし、とにかく痛い。早く助けてほしい。」などと、左大腿部の激しい疼痛と両足のしびれを度々訴えた。
表情からは、強い不安感と恐怖感が認められた。
要救助者への接触直後から、隊員が要救助者の頭部側に位置し、用手固定による頸椎保護と声掛けによる意識状態などの評価を継続した。
また、一連の容態観察終了後にヘルメット及びマスクを着装させた。
これらの作業と並行して、要救助者周辺の瓦礫をバール、ノコギリ、ボルトクリッパーなどで排除し、隊員4、5人が活動できる空間を確保した。同空間には、隊員が中腰で活動できる程度の高さがあった。

7.救急救命士との現場連携
要救助者の挟まれ状況からクラッシュ症候群の発症が懸念された。そこで、先着していた消防部隊に医療関係者の派遣調整を要請したところ、同隊の迅速な対応により、要請から約30 分後に上益城消防組合消防本部の救急救命士が現場に到着した。
直ちに救急救命士とブリーフィングを実施してCSM実施の方針を固め、同救急救命士が倒壊建物内部で輸液投与及び酸素投与を行った(表2-3-6、写真2-3-10)。

倒壊建物内部での要救助者への措置内容
警察部隊 ・ 頸椎保護(用手固定)
・ 粉塵対策(マスクの着装)
・ 頭部保護(ヘルメットの着装)
・ 継続的な声掛け
消防部隊(救急救命士)
・ 輸液(1,000ml)   ・ 酸素投与
注) 救急救命士による措置内容は、総務省消防庁救急企画室からの情報提供による。
8.挟まれ・圧迫の解除当初、要救助者を圧迫する梁を電動コンビツールにより挙上する方針で作業を進めたが、同梁には屋根部分を含む相当の荷重がかかり、挙上には至らなかった。
次に、梁の切除について検討したが、同梁が倒壊建物の安定性を維持している状態であったため、選択できなかった。
そこで、梁で耐荷重を期待できる箇所(数箇所)の直下に角材を鉛直方向に設置した上で、電動コンビツールでベッドのマットレスを下方向に押し下げ、できた隙間に角材及びパンタグラフジャッキを差し込んで徐々に隙間を広げ、要救助者を引き出すという方針に変更し、挟まれ・圧迫を解除した。
一連の挟まれ・圧迫解除に要した時間は、約30 分であった。

9.倒壊建物内からの搬出
梁の下から要救助者を引き出した後、方向変換させながら梁の上部を越えてバックボードに移乗させ、搬出経路(進入経路と同一)に配置した隊員が手送りで倒壊建物外へ搬出した。
10.引継ぎ・搬送
午前5時頃(現場到着から約1時間30 分後)、要救助者を現場付近で救急隊に引継ぎ、要救助者は救急車により医療機関に搬送された。引継ぎ時、特段の容態変化は認められなかった。
11.転進
救助活動の終了から約5分後、熊本県警察本部の指示に基づき、益城町内の建物倒壊現場へ転進した。
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3:15 熊本県警察機動隊庁舎出発
3:30現場到着、要救助者の反応確認
3:35医療的支援の要請
3;40救急救命士の到着、部隊指揮官によるブリーフィング
4:10点滴等の開始
4:20挟まれ・圧迫解除作業開始
4:50挟まれ・圧迫解除完了、搬出開始
5:00搬出完了、引継ぎ
5:05転進開始