masami71の日記

熊本市在住の72歳の年金暮らしです

「月の上の観覧車」 作:荻原 浩

「月の上の観覧車」 作:荻原 浩

2012年3月3日放送のアンコール。
広島にある老舗旅館(のちに観光ホテル)の息子として生をうけた昭和ヒトケタ生まれの主人公の「私」。
東京の大学に進んだ「私」の夢は、映画監督になることだった。
大学を卒業しても故郷に戻らず映画への夢を抱き続けていた頃知り合ったのが、妻の遼子だった。
結局、故郷に戻って社長を継ぎ、急斜面を駆け上がる勢いで業績を伸ばしていった。しかし・・・。


語り:久保田 茂(つとむ)

もし人生が二度あれば、自分は許しを乞うのだろうか。
逃げ出したかった寂しい故郷、守れるはず、などない約束。
月光の差し込む観覧車の中で、愛する人々と束の間の再会を遂げる老いた男を描く。
もう取り戻せない時間の哀歓が胸を打つ。
閉園後の遊園地。高原に立つ観覧車に乗り込んだ男は月に向かってゆっくりと夜空を上昇していく。
主人公は若い時、酔った勢いで東京の観覧車に乗ってしまう。
そこへ父が現れる。父が亡くなったのです。
主人公は東京から帰り、父の経営したホテルで働き始めました。
東京に残した遼子を呼び二人で働きます。
父に代わり経営してた叔父は周りの役員から追い出され、主人公は社長に就任します。
バブルの流れでホテルは大きくなっていきます。
遼子は子供を授かりますが、久男はダウン症なのか障害を持って生まれ13歳で亡くなる。
バブルがはじけ、ホテル経営が傾く。
そんな中、ガン闘病中の60過ぎの主人公が、彼が経営する会社のリゾート施設の観覧車に営業時間が終わってから一人で乗る。
彼は、幼いときに一人で乗った観覧車で死んだ母に会い、50年近く前には観覧車で若い頃の父と出会っています。
そして今、月のある空へ、一人きりで乗った観覧車で駆け上がれば、地上では会えない人々に会えると確信する彼は、4年前に逝った妻や、13歳で死んだ息子に会おうとしているのです。
誰にでも、死者とつかのま出会える瞬間がある。主人公はそう信じている。
おそらく、その瞬間は人それぞれに違い、いつ、どこで訪れるのかがわからないために、たいていの人間が見逃しているだけなのだ。
観覧車の中で男が振り返る過去は、淡々としているけれど、大切な人を失った深い悲しみを湛えていて、その悲しみのあまりの深さ切なさなこと。
彼が失ったもの、そしていま失いつつあるものに思いを馳せると。
でも、それでもなお、彼にはまだ未来がある。
大切な人たちを失っても。冷たい月の光のように、希望と呼ぶにはささやかすぎる、いつまで続くかわからないけれど、明日が。