masami71の日記

熊本市在住の72歳の年金暮らしです

NHKラジオ文芸館「遠い野ばらの村」

作:安房 直子「遠い野ばらの村」

主人公は一人暮らしのおばあさん。
楽しみは、店にやってくるお客さんに 遠くに住んでいる息子家族の話をすること。
でもそれは、おばあさんの作り話だった。
ところがある日、その孫娘が本当に訪ねて来る。
これまでおばあさんがうっとりと語ってきた自慢のお下げ髪の女の子は…。
児童文学者、安房直子の、幻想的でどこか懐かしく、限りなく優しい作品世界をお楽しみいただく。 
語り:中條誠子

谷間の小さな村で雑貨屋を営むおばあさんは、お店に来る人には誰彼となく、息子のことを話すのが癖でした。
遠くの村に住むという息子夫婦や孫たちのことを話す時、おばあさんの顔はとても生き生きと輝くのです。
でも、村の人たちはみんな知っていました。
おばあさんには息子なんかひとりもいないということを。
何もかも、ひとり暮らしのおばあさんの空想なのです。

ある日ほんとうに、おばあさんのお店に、思い描いていた通りの孫娘が訪ねてきます。
「千枝」と名のるその子は、お父さんが作ったせっけんをお店に置いてほしいと言うのですが…。

空想の中にしかいないのに、人に話しているうちに本当にいるような気がしてきて、孫娘のためにゆかたを縫い始めるおばあさんが切なくて。
そしたら本当にそんな女の子が訪ねてきて、孫の名まえは、千枝でしたっけ……。
おばあさんは、うれしくて、ふっと涙が出そうでした。
野ばら堂で作った石鹸をおばあさんの店で売ってほしい。
この石鹸は野ばらのにおいがした。
20個のせっけんを置いて「一週間たったら、また来ます」
と言って帰った千枝の次の訪れが、おばあさんには待ち遠しくてたまりません。
ゆかたを縫い上げて、おはぎを作ろうと、もち米と上等のあずきを用意して。
約束の日より一日早くやって来た千枝は、今度はふたりの弟を連れていました。
この子どもたちが、もう、ほんとに可愛いんです!
「あずきとお米が、すぐやわらかくなるように、わたしがおまじないしてあげる」
小さなばらの花びらを、あずきの桶ともち米のお釜に浮かべ、千枝が唱えた呪文は
「のんのんのん」のんのんのん、ですよ!
なんて可愛いおまじない!!!
こうして、ひと晩水につけておかなければやわらかくならないはずのあずきも、もち米も、ふっくりとふくらんで、おはぎはその日のうちに出来上がりました。
おはぎでおなかがいっぱいになって、眠ってしまった子どもたちは、翌朝にはいなくなっていました。
いなくなったあと、茶色の短い毛が落ちていた。
狸だったのだ。
おばあさんは狸だろうが全然気にしなかった。
ある日、子供たちが野ばら堂で作った石鹸でシャボン玉を飛ばしてた。
そのシャボン玉を追って、おばあさんは何里も離れた山の奥まで歩いて行って、野ばら堂の石鹸を製造する場所を目にすることができた。
そこで、思いもよらぬかたちで、おばあさんは再会した三人の子ども(狸)たちに、着物を取りに来るように言う。
すっかり暗くなり、狸たちはおばあさんの帰り道を明るく照らすちょうちんを渡した。
おばあさんは道に迷わず、しかも身体が楽に帰り着いたのです。