06月23日 17時03分
近世最大級の石造アーチとされる山都町の「通潤橋」が国宝に指定されることになりました。
これは、23日開かれた文化庁の文化審議会で永岡文部科学大臣に答申されました。
山都町にある通潤橋は、水源に乏しい周辺の農地を潤すため、およそ170年前に建てられた水路橋です。
石造アーチ橋と耐久性にすぐれた石造りの通水管を一体化し、農地に給水する水の流れを作っていて技術的にも完成度が高いとされています。
計画から完成に至るまで、当時の地元の人たちによって行われ、完成までの過程を裏付ける資料などもあわせて国宝に指定されます。
通潤橋では、通水管のなかにたまった土砂を取り除くための目的で橋の中央部分から放水が行われていて、これが観光の売りの1つとなっています。
2016年の熊本地震や2018年の豪雨で橋の一部が崩れるなどの被害を受けましたが、復旧工事を経て2020年に放水を再開しました。
そして、現在も地域の農耕活動を支えています。
県などによりますと、土木構造物として国宝に指定されるのは全国で初めてで、県内にある国宝の建造物は人吉市の青井阿蘇神社についで、2番目だということです。
【山都町の梅田穰町長】
「通潤橋」のある山都町の梅田穰町長は「正直に言って、びっくりしている。保存活用をどうしていくか、我々に課せられた大きな課題だと思う。通潤橋は町民の心の支えで、町にとっても通潤橋を盛り込んだ観光がメインとなっている。国宝の指定によって多くの人に来てもらって通潤橋への認識を深めてもらいたい」と話していました。
【観光客】
通潤橋について、福岡県久留米市から来た観光客の男性は「国宝に指定されるのはすごいと思う。こんなに大きな石橋は見たことがない」と話していました。
また熊本市から来た観光客の男性は「素晴らしいことだと思う。熊本県内で国宝が増えてくれるのは嬉しい。農業用水のために緻密に計算し、これだけのものをつくった当時の人たちの知識はすごいと思う」と話していました。
【地元】
通潤橋を通して流れる水は、およそ6キロ上流にある川から取水されたもので、水資源の乏しい白糸台地という地域の棚田に送られています。
現在でも、155世帯の農家が管理するおよそ108ヘクタールの水田で利用されています。
地元の通潤地区土地改良区の阿部主税理事長は国宝に指定されることについて「驚きと喜びでいっぱいだ。通潤橋の水がなければわたしたちの地区は米づくりができない。先祖代々、維持管理をしてきたことで地域の農業が守られているということははっきりと言える」と話していました。
通潤橋の水路の土砂を取り除いたり、草刈りをしたりする維持管理の作業は地元の人たちによって続けられていて阿部理事長は「高齢化もあって維持管理をする作業は大変ですが、国宝に指定されることは作業するうえでの励みになり、これまで通りがんばっていかなくてはいけないなと思う」と話していました。
【専門家】
「通潤橋」について、土木工学の専門家で「通潤橋保存に関する検討部会」で座長を務める熊本大学の山尾敏孝名誉教授は「企画立案から完成にいたるまで地元の役人が主体となって行われ、完成して使われてきた。さらに今まで残っているということが一番大事なことだと考える。石橋であることに加え、農業用の水利施設でもあるという複合的な構造物であることや、これまで町全体でどうやって守ることができるか研究し、保存活用をしてきたことが今回の評価につながったと考えられる」と話しました。
また熊本地震や豪雨災害からの復興のため内部調査をできたことがすぐれた技術の評価の裏付けになったとしたうえで、今後の国宝としての保存活用について「今後も調査研究をしながら維持管理をしていくとともに、国宝になった理由を多くの人にきちんと説明していく工夫が必要だと思う。通潤橋は放水でよく知られているが、これをきっかけに放水だけではない、通潤橋の価値を知ってもらうことが必要だ」と話していました。
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