masami71の日記

熊本市在住の72歳の年金暮らしです

熊本地震後の奈良・山口・大分県警

広域緊急援助隊奈良県警察部隊の小隊長以下14 人(県機動隊13 人、機動警察通信隊1人)は、前震発生後の4月14 日午前1時14 分に奈良県警察機動隊庁舎を出発し、翌15 日午後4時30 分に活動拠点(熊本県民総合運動公園)に到着した。
到着時、既に前震発生に伴う一連の救助活動が終了していたため、熊本県警察本部の指示に基づき、益城町内の警戒活動を行った。
同部隊は、その警戒活動中に本震発生を迎えた。
激しい揺れが収まると、無線から多数の建物倒壊情報が流れた。
部隊は直ちに活動拠点へ戻って出動準備を整え、熊本県警察本部の指示に基づき16日午前1時50 分に益城町島田地区の建物倒壊現場(以下「第1現場」という。)へ向けて出発した。
途中の経路には隆起・陥没などの道路損壊が多数発生しており、益城町付近では緊急車両による渋滞も発生していたため、地域住民に経路を確認するなどしつつ迂回を繰り返した。
第1現場付近に到着した後も、直近まで帯同車両を乗り入れることができなかったため、第1現場から約100m離れた位置に駐車し、資機材をリヤカーに積載して徒歩で臨場した。第1現場到着は、午前3時10 分(所要時間:約80 分)であった。
・ 人員輸送車(普通車) 3台
・ 資材運搬車(中型車) 1台

活動拠点(熊本県民総合運動公園) 第1現場(益城町島田地区)約80 分間
2.現場関係者からの情報収集
第2現場到着時、それまで救助活動を行っていた消防団員(3人)から要救助(80 歳代男性)に関する情報提供を受けることができた。

消防団
・ 倒壊建物の屋根に開口部を設定して内部に進入し、要救助者(80 歳代男性)に接触した
・ 3人では救出が困難な状態である
※ 要救助者の閉じ込め位置、挟まれ状況等について情報提供あり
3.活動現場の危険要因
余震が断続的に発生していたほか、建物倒壊の更なる進行、落下危険物等の危険要因があった。
そこで、支援のため後着した山口及び大分県警察の広域緊急援助隊との調整に基づき、専従の安全監視要員を建物周囲に配置し、緊急退避合図(笛の吹鳴)を設定して部隊間で共有した(表2-1-5)。
また、緊急退避を迅速に行うための開口部の拡張や瓦礫排除などの二次災害防止策を講じた。
なお、倒壊建物内部の状況が安定的であったことなどから、要救助者への早期接触を優先し、開口部からの進入に先立つ倒壊建物の安定化措置は見送った。
第2現場到着時の状況 図2-1-2 現場の建物倒壊状況(イメージ図)

表2-1-5 後着警察部隊
山口県警察部隊(中隊長以下26 人)
・ 県機動隊15 人、管区機動隊11 人で編成された広域緊急援助隊
・ 別現場での活動を終えて移動中に奈良県警察部隊の活動現場を現認し、午前3時25 分頃に合流した
大分県警察部隊(小隊長以下25 人)
・ 県機動隊14 人、管区機動隊11 人で編成された広域緊急援助隊
熊本県警察本部の指令に基づき、午前4時00 分頃に到着・合流した。
4.倒壊建物外からの呼び掛け
消防団員の設定した屋根の開口部(約1m四方)付近から「警察です。大丈夫ですか?」などと内部に呼び掛けたところ、直ぐに内部から「助けてくれ。」と、はっきり聞き取れる男性の声を確認することができた。
しかし、開口部から覗きこんでも、要救助者の姿は視認できなかった。

状況確認の結果、既に第1現場の要救助者全員が倒壊建物内から脱出し避難したことが判明し、熊本県警察本部に状況報告を行った。
その直後、部隊に消防団員が駆け寄り、「隣の倒壊建物に老夫婦が閉じ込められている。」との口頭申告を受けたため、直ちに隣接する建物倒壊現場(以下「第2現場」という。)に向かった。
第2現場は、2階建て木造家屋が上下階共に崩壊し、2階の屋根が地面から約1mの高さまで崩落していた(写真2-1-1、図2-1-2)。


部隊は、直ちに熊本県警察本部に状況報告を行い、救助活動を行うよう指示を受けた。
2.現場関係者からの情報収集
第2現場到着時、それまで救助活動を行っていた消防団員(3人)から要救助者(80 歳代男性)に関する情報提供を受けることができた。
表2-1-2 現場関係者の情報
消防団
・ 倒壊建物の屋根に開口部を設定して内部に進入し、要救助者(80 歳代男性)に接触した
・ 3人では救出が困難な状態である
※ 要救助者の閉じ込め位置、挟まれ状況等について情報提供あり
3.活動現場の危険要因
余震が断続的に発生していたほか、建物倒壊の更なる進行、落下危険物等の危険要因があった。
そこで、支援のため後着した山口及び大分県警察の広域緊急援助隊との調整に基づき、専従の安全監視要員
を建物周囲に配置し、緊急退避合図(笛の吹鳴)を設定して部隊間で共有した(表2-1-5)。また、緊急退避を迅速に行うための開口部の拡張や瓦礫排除などの二次災害防止策を講じた。
なお、倒壊建物内部の状況が安定的であったことなどから、要救助者への早期接触を優先し、開口部からの進入に先立つ倒壊建物の安定化措置は見送った。


屋根の開口部は瓦屋根の中腹付近に位置し、夜露で滑りやすい状況であったが、隊員の進入や資機材の搬入には十分な大きさであったため、同開口部を倒壊建物内部への進入箇所とした。
同所から進入すると、内部は屋根裏であり、隊員5、6人が立って活動できるほどの十分な空間があった。
瓦礫や崩壊した土壁等が散乱していたが、屋根を支える部材に大きな損傷は認められなかった(写真2-1-4)。

進入から間もなく、進入箇所から奥方向へ約3.5mの地点で、瓦礫に埋もれた状態の要救助者に接触した(写真2-1-5、図2-1-3)。
6.接触時の要救助者の状況
要救助者は大部分を瓦礫に覆われ、大きな梁(約40cm 角)が左肩から下半身にかけて覆い被さっていた。
また、同梁は、要救助者の腰部・両大腿部を強く圧迫している状況であった(写真2-1-6,7,8,9)。


要救助者は意識清明であり、生命兆候(以下「バイタル」という。)は安定していたが、「とにかく痛い。
梁をどうにかしてくれ。」と腰部以下の激しい疼痛、腰部以下及び左腕のしびれを訴えた。さらに、「隣で寝ていた妻の声が聞こえない。生きていても仕方がない。もう死にたい。」と自暴自棄な発言も見られた。
要救助者が精神的に不安定な状態にあると認められたことから、隊員が要救助者の頭部側に位置し、要救助者の手を握りながら励ましの声掛けを継続した。



また、粉塵対策として要救助者にマスク及びゴーグルを着装させたが、マスクについては要救助者が着装を頑なに拒んだため、土壁の排除作業等で粉塵が発生するタイミング以外は取り外した。
これらの作業と並行して、要救助者周辺に散乱する瓦礫を排除することにより3、4人が活動できる空間を確保した。
なお、要救助者の情報に基づき、もう1人の要救助者(80 歳代女性)の存在を認知し、繰り返し呼び掛けを行ったが、終始反応はなかった。
要救助者の挟まれ状況(模型による再現)

写真2-1-6 接触時の要救助者の状況(上方から撮影) 写真2-1-7 接触時の要救助者の状況(模型による再現)
警察庁  16
熊本地震における警察の救助活動に関する調査分析
第2章 事例紹介
7.救急救命士との現場連携
要救助者の挟まれ状況からクラッシュ症候群の発症が懸念された。そこで、熊本県警察本部に医療関係者
の派遣調整を要請しようとしたが、無線が輻湊していたため、110 番に架電して災害警備本部への連絡を依頼
した。約30 分後、熊本市消防局の救急救命士が現場に到着した。直ちに救急救命士とのブリーフィングを実施し、CSM(Confined Space Medicine:いわゆる「瓦礫の下の医療」)実施の方針を固め、同救急救命
士が輸液投与及び酸素投与を行った(写真2-1-10,11、表2-1-6)。
表2-1-6 倒壊建物内部での要救助者への措置内容
警察部隊 ・ 粉塵対策(マスク、ゴーグルの着装)
・ 頭部保護(ヘルメットの着装)
・ 継続的な声掛け
消防部隊
(救急救命士)
・ 輸液(1,000ml)
・ 酸素投与
救急救命士の措置内容は、総務省消防庁救急企画室から
の情報提供による。
8.挟まれ・圧迫の解除
当初、要救助者を圧迫する梁をエアジャッキにより挙上する方針で作業を進めたが、同梁に屋根から相当の荷重がかかり、梁の下部が布団であったこともあり、エアジャッキ自体が下方向に沈み込んでしまい、十分な挙上に至らなかったため、梁を切除して挟まれ・圧迫を解除する方針に変更した(写真2-1-12)。
この作業に伴う屋根の崩壊等に備えて、要救助者を圧迫する梁の下部の僅かな隙間にレスキューブロック
を差し込むとともに、同梁に連結する梁で耐荷重を期待できる箇所に対して救助用支柱器具を鉛直方向に
設置し、可能な限り梁の安定化を図った(写真2-1-13)。また、同梁が屋外に突出していたことから、倒壊
建物外部において救助用支柱器具を鉛直方向に設置して安定化を図った(写真2-1-14,15、図2-1-4)。
写真2-1-10 救急救命士のCSM実施状況 写真2-1-11 左同(右奥側の救急救命士が輸液を保持)
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第2章 事例紹介
写真2-1-13 救助用支柱器具等の設置箇所(梁の下部に設置)
(模型による再現)
写真2-1-12 要救助者の状況 (上方から撮影)
要救助者を圧迫する梁
救助用支柱器具
設置箇所※
レスキューブロック
設置箇所※
レスキューブロック
設置箇所※
写真2-1-14 倒壊建物外の救助用支柱器具設置箇所
(設置作業中)
写真2-1-15 左同(設置後)
図2-1-4 挟まれ・圧迫解除作業のイメージ
救助用
支柱器具
警察庁  18
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第2章 事例紹介
これらの奈良県警察部隊による安定化措置に加えて、山口及び大分県警察部隊が、奈良県警察部隊と調整し、倒壊建物の屋根を排除する軽量化措置を行った(写真2-1-16,17,18)。


これらの措置が完了した時点で、チェーンソーにより梁を切除し、挟まれ状態を解除した。
レスキューブロック等による安定化措置を開始してから要した時間は、約2時間15 分であった。
9.倒壊建物内からの搬出挟まれ・圧迫を解除した後、その場で要救助者をバックボードに移乗させ、搬出経路(進入経路と同一)に
配置した隊員が手送りで倒壊建物外へ搬出した(写真2-1-19,20,21)。
写真2-1-20 閉じ込め空間からの搬出状況
(模型による再現)
写真2-1-19 バックボードへの移乗状況
(模型による再現)
写真2-1-18 建物軽量化後の状況(活動終了後に撮影)
要救助者の閉じ込め位置
写真2-1-16 建物軽量化措置の状況 写真2-1-17 左同
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熊本地震における警察の救助活動に関する調査分析
第2章 事例紹介
10.引継ぎ・搬送
午前7時15 分頃(第2現場到着から約4時間後)、要救助者を第2現場付近で救急隊に引継ぎ、要救助者は救急車で医療機関に搬送された。引継ぎ時、特段の容態変化は認められなかった(写真2-1-22)。
引き続き、もう1人の要救助者(80 歳代女性)の救助活動を行うため、奈良、山口及び大分県警察の各部
隊指揮官でブリーフィングを実施して活動方針を決定し、直ちに活動を再開した(表2-1-7)。
搬送された要救助者から「妻は隣で寝ていた。」との情報を得ていたことから、同所付近を中心に瓦礫の排除作業を継続したところ、午前8時50 分、瓦礫に埋もれた要救助者(心肺停止)を発見した。覆い重なる瓦礫を更に排除して、午前9時20 分頃に倒壊建物外へ搬出し、熊本県警察刑事部隊に引き継いだ。
表2-1-7 活動方針
○ 不休で活動していた奈良県警察部隊は一旦休憩し、山口及び大分県警察部隊が活動を継続する
○ 山口及び大分県警察部隊の半数(各10 人程度)が合同で活動する(概ね1時間で交替)
※ 引継ぎ漏れ等の懸念から、一県単位での活動方針はとらなかった


写真2-1-21 閉じ込め空間からの搬出状況
写真2-1-22 引継ぎ時の状況
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熊本地震における警察の救助活動に関する調査分析
第2章 事例紹介
11.転進
第2現場での救助活動を終了した後、奈良、山口及び大分県警察の各部隊は、熊本県警察本部の指示に基づき、活動拠点(熊本県民総合運動公園)に転進した(表2-1-8)。
表2-1-8 時系列
1:50 活動拠点出発
3:10第2現場到着
3:13要救助者(80 歳代男性)の反応確認
第1現場到着
第2現場へ転進開始