先日の「ラジオ文芸館」で明川哲也作「花丼」の朗読がありました。
「花丼」は月刊誌『PHP』の「川辺の町の物語」を単行本化した短編
小説集の中にあります。
とある町の川沿いにある小さな食堂「大幸運食堂」。
主の継治(つぐはる)さんが一人で営む店は、かつてそこそこ繁盛して
いたが、近所の大型スーパーが閉店して以降、客足が途絶え、
経営はかなり厳しい。
おまけに、農業を営む兄から送りつけられた食用の「菊の花」の箱が
山積みで、どうすれば処理できるのか途方に暮れる。
ついには、「いっそのこと首でも吊ろうか」と思いつめるようになる。
そんなある日、いつものように河川敷を散歩していた継治さんは、
川の中で膝まで水につかりながら、さらに深いところに進んで行く
男を見かけた。
入水自殺をする男を助けた継治さんは、食堂兼自宅に連れて行き、
濡れた服を着替えさせ、まかない飯を食べさせた。
男は看板屋で仕事が無く、自殺をしようとしたとのこと。
継治さんは自分と同じだと思いつつ、その男を励ました。
男はご馳走してもらった料理の名前を尋ねたら、継冶さんは一考して
花丼と名付けて答えた。
ある日、看板に書いてある「花丼」を下さいと、今にも自殺しそうな
お客が入ってきた。
継治さんは急いで外に出て看板を見た。
それからまたお客が来て、継治さんは「花丼」ですかと尋ねると
「カツ丼」ですと注文した。
継治さんは何かが変わると思えた。
「花丼」とは食用菊としらすを使ったどんぶりで、初めて知りました。
「大幸運食堂」(PHP研究所)所収
語り:原田 裕和