masami71の日記

熊本市在住の72歳の年金暮らしです

森 浩美作 ホタルの熱

昨日はいつもの「ラジオ文芸館」を聞きました。
このお話は聞くのが辛かったですね。
景気が悪くなかったら、親子3人幸せに暮らせたのに。
まさしくバブルがはじけて、丁度私も建設関係のためお仕事が半減
して辛かった時期と重なります。
朗読を聞いてるうちに、最後は鼻水が止まりませんでした。NHKの紹介は
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「ホタルの熱」2013年2月16日
作:森 浩美
2008年8月2日放送のアンコール。
伊豆の海辺の小さな温泉町の駅に、子連れの女が降り立つ。
夫が蒸発して以来、パートで6歳の息子を懸命に育ててきた。
病気がちの子供をかかえ、ついには解雇までされた女は、死を覚悟した
旅に出ていた。
しかし、子供はこの旅でも熱を出し、息子を休ませるために急きょ降り
立ったのだった・・・。

「家族の言い訳」(双葉社)所収
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夫が経営してた電気設備工事の店が、不景気で首が廻らなくなり、夫婦間も
うまく行かず、夫は離婚届を書いて家を出て行った。
女はレジのパートなどをして、息子を懸命に育てるけど、病弱な息子は
頻繁に発熱した。
仕事を途中で抜け出さざるを得ず、同僚などからも嫌われ解雇される。
失意のどん底で、息子を連れて死での旅に出たけど、息子の急な発熱で、
伊豆で途中下車することになった。
病院で診察を受け、温泉街なのに、宿泊費が安い民宿を見つけて投宿した。
そこの女将に親切にされ、息子の母親は心が癒されていった。

女将さんの娘は結婚したが子どもが出来ず、旦那に浮気されそっちの相手に
赤ん坊ができたのを逆上して旦那を刺してしまい罪を償っていると
打ち明けてくれた。
また自分の旦那は大酒のみで早くに死んだから気苦労しなかったけど残された
自分が死んじゃいたいぐらいだと心境を吐露する。
女は女将さんに自分の境遇を重ね救われた気持ちになっていく。

不意に民宿の窓の外にホタルが暗闇をよぎる。
それを見た女将さんは
「人間様の寿命もホタルみたいに二週間くらいしかなかったら、悲しいこと
もあっという間に終わっちゃうんだろうけどね」と話す。

「でもしょうがないよね、人間様に生まれちゃったんだから。
ま、ホタルに負けないように辛くても寿命がくるまで一生懸命生きなくっちゃね、
辛いことばかりでもないし……」
とさらに話してくれた。


部屋の明かりを落としてから主人公の母と息子の駿の話が続く。

「パパはさ、ボクが嫌いだから帰って来ないのかなぁ?」
「パパが駿のこと嫌いなわけないじゃない」

「ママは……ボクのこと……好き?」
「……うん」
「じゃあ…ずっと…一緒に…いてくれる?」
「当たり前じゃない」

「ボクさ…今度生まれてくるときは元気な子に生まれてくるから…
そうしたらまた…ママがボクを産んでくれる?」

主人公の奥底に溜まっていた様々な感情が堰を乗り越え凄い勢いで溢れ
出してきた。

「ああああ、駿、ごめん、ああああ」
泣き声を聞きつけた女将さんが慌てて部屋に飛び込んできた。

「ああああ、女将さん、ああああ」

「泣けばいい、いっぱいいっぱい泣けばいい」

主人公の身体から濁った水が流れ出し、そのぽっかりと空いた場所に
温かい塊が生まれてくるのが分かった。

死のうとする悲壮な決意が熱を出して苦しんでいる息子を目の当たりに
して無力になっていく。
辛く悲しい経験を胸に秘めてはいるが精一杯生きようとする女将さんの
話で、死という重大な決意が融解していく。
悲しい話のはずなのに不思議と心が晴れ渡ってくる。
海辺の町に向う電車のガタンゴトンという音、民宿から聞こえる波のざわめき・・・
今少しずつ景色が動き始めた。